悪い夢を見た

悪い夢を見た。

 

母がいた。父もいた。ずいぶん昔の話だ。

あんなに鮮明に覚えていたはずなのに、夢というのは起きると不思議と思い出せないものだ。

 

私はどこかに出かけようとしてて、父と母に慌てて嘘をついた。嘘をついたから事態が余計ややこしくなって、家族の予定を振り回した。そんな感じの夢。

 

多分彼氏のところに行こうとしてたんだと思う。今となっては遺品となってしまった、母のヴィトンのバッグに私は荷物を詰めていた。数時間前に私が家から出て来たときのように。

昨晩はもう外は十分暗かったけど、夢の中ではお昼間だった。玄関で私は何かを支度してる。しゃがんで靴を履きつつ、詰め込んだカバンを見てる。くしゃくしゃのハンカチは友達にもらったものだ(今私の部屋の机の上にあるやつ)。今も昔も変わらない、私のカバンの中。

慌てて出ようとする私をの後ろに立って何かを言う母。18年間、私のそばにいたひと。私を心配して私に何かを言ったのだと思う。でかけるの?とか、ごはんあるのにいいの?とか、みんなで出かけるから駅まで送ろうか?とかそんな優しい言葉。私はそれに対して、その優しい気持ちを裏切って、嘘をついて彼氏の家に行くことに耐えられなくて。「うるさい!関係ないじゃん。」と怒鳴った。私は母によく当たっていた。人あたりをよくしようと外で振る舞う分、中では母親にキレていた。まるでDVだった。その大半は母に嘘をつくときの防衛反応だったように思う。

 

そうして怒鳴って、母親に悪いことをしたと思うのに、夢の中の私の心の中に渦巻くのは、怒鳴ったことへの罪悪感ではなくて、内緒で彼氏の家に行く罪悪感。母の隣には父もいた。

嘘をついて家を出ることの圧迫感。息苦しい気持ち。首が絞まって、目が見開かれて、いっぱいいっぱいになる。ああ、ずっとこんな気持ちで生きてきた。

 

初めてゲームセンターでプリクラを撮りにいったときも、初めて化粧を覚えたときも。結局後から母に懺悔をして、いっぱいいっぱいの罪悪感を流してきた。

 

毎日が逃亡犯のようで、毎日が罪深くて。その苦しさの感覚を、体は覚えていた。久々に味わったその感覚は私に「こどものころ」を思い出させた。

 

大した夢じゃない。亡くなった母にも会えた。母がいた頃のリアルな感覚がそこにはあった。父もいた。家族だった。

なのにとても息苦しくて私が18年当たり前のように感じてきた息苦しさででも久々に味わうと結構キて。うなされていた。

 

 

 

 

目覚めると彼氏がいた。

夢で良かったと思った。身体に残るあの息苦しい感覚はまだ少し残ってる。それが気持ち悪かった。

 

「うなされてたけど」

と彼氏が言った。

 

少し迷ったけど、私は

「悪い夢を見た」と言った。

 

「そうか」と彼氏は言った。

 

それから

「ママとパパが出てきた」と言った。

 

「そうか」と彼氏はまた言った。

 

それで話は終わった。

私もそれ以上は何も言わなかった。