美人ブログ

お待たせいたしました、美人でございます。

脇から粉を出すロン毛が、私の脳内を侵食するとき

 

「でね、彼女も音楽活動始めるまで、"脇から粉を出すロン毛"がこの世にいるなんて思わなかったけどDJパーティには普通にいたって言うんです。」

 

22時過ぎの渋谷で、マルチョウとシロコロを焼きながら、私はルネちゃんとレモンサワーを飲んでいる。ルネちゃんは大学時代に出会った先輩で、出会って5年になる。ルネちゃんの恋人は「見た目が怖い食べ物が苦手」ということで、エビカニイカタコや、内臓系などの珍味が食べられない。だから、私がルネちゃんと会う時は、臓物や珍味系をつつくことが多い。センマイとか、チャンジャとか、タコワサとかをコリコリ食べている。四文屋とか行くことも多い。美味しいよね。

 

冒頭の会話は、「人は実際にその環境に触れたり出会ってみないと、自分の知っている範囲の想像を超えたものは望めない」というような話題の中でルネちゃんが共有してくれた話だった。この会話中の「彼女」というのは、私たちの仲良しのコネズミちゃんのことで、彼女とはもう8年の付き合いになる。

 

コネズミちゃんは音楽活動をしている。爆発的なセンス、そしてナイーブさセンチメンタルさを抱えつつ、ストイックでマッチョな表現を探求している。彼女はマイ・ベストフレンズのひとりである。乳製品が好きな彼女が我が家に来る時、わたしはよく牛乳と、飲むヨーグルトで出迎える。彼女が右手に牛乳、左手に飲むヨーグルトを抱え、ちぅ、とストローで白い液体を吸うのを見るたびに、可愛らしいなあ、と思い飼育されているもふもふの小動物の姿を思い起こす。だからここでは、コネズミちゃん、という名前で書こうと思う。

 

さて、前置きが長くなってしまったけれど、そのコネズミちゃんは音楽活動を始めるまで、"脇から粉を出して踊るロン毛の人"みたいな格好のいい人に出会えなかったんだけど、普通にこの世には存在していたことを知って嬉しくなった…んだそうだ。

わたしも彼女との付き合いはもう8年になるし、ルネちゃんとの付き合いももう5年だ。だから、大事な友達の趣味趣向は、過ごしてきた年月分くらいは心得ているという自負がある。もう、「脇から粉を出して踊るロン毛の人」のことなんて、ノーガードで飲み込みたかった。だって、彼女がロン毛の人を好きなことは知ってたし、独特な表現のセンスを持っていることを無上の価値として大切にしていることも、折り込み済みのはずだった。

 

「そうだよな、私には"脇から粉を出して踊るロン毛の人"が好きな友達がいる。そういう友人の輪の中に私は生きている…」と、世界の広さと温もりと愛しさを抱き締めて、ぼやけた意識の中、ミノとレモンサワーと共に飲み込もうと思った。

 

私の脳内には、爆音と共にフラッシュのように点滅するフロアで、脇から小麦粉のようなものを出しながら壊れたおもちゃのようにに踊る、上裸のスキニーなロン毛の男性が浮かんでいた。

 

(うん、多分これだ。こういう人が、単なる理想とかじゃなくて、普通に存在しているってことに気が付けて良かったって話なのだな〜、たしかに、目で見るまで自分が望んでも良いと思えない世界線はあるよな〜、この世はまだ見ぬもので溢れているよ…美しいな…。)と、アルコールと共に自分の脳に馴染ませ、話を先に進めた。蛇口からレモンサワーの出る店で、オーダーストップになるまで、その日もルネちゃんとよく飲み、話した。

 

しかし、私はこの日から「脇から粉を出して踊るロン毛」というフレーズが、脳内焼き付いて離れなくなってしまった。「それってどんな人なんですか!?どんなパフォーマンスをしてるんですか?」「どんな瞬間にそれが巻き起こったんですか?なぜときめいたんですか?」と聞けなかった。強がってしまった…。聞かずに理解した感じにしたかった。だから消化不良のまま、ゴクン!と飲み込んでしまった。

 

胃の中にずっとある「脇から粉を出すロン毛」。そのフレーズは忘れられずに1週間、私の中にとどまり続けた。電車を降り、帰宅しながらエスカレーターに乗ってる時も「脇から…粉を出すロン毛?」、湯船に浸かってふぅっと一息ついた時に「脇から…粉を出すロン毛?」。気になってしまう。理想以上の状況を目の当たりにできた歓び、の話としては、あまりにも大きくはみ出してしまうその存在が、私の中でどんどん大きくなっていく。aikoの歌詞みたいなことを書いてしまったが、なぜこんな存在が私の中で大きくなってゆくのだろう。人生で一度も考えたことのない存在なのに…。

 

もう耐えられなかった。わたしはたまらず、彼女にLINEをした。

 

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参考動画が送られてきた。(1:40らしい)

 

 

そして画面には本当に脇から粉を出して踊るロン毛の人が映っていた。

「この人か〜〜〜〜!こういうことか〜〜〜!」

と悩んでいた全てに納得できる、腑に落ちるくらいには、聞いた話そのままの映像だった。本物の粉ではなく、概念の粉ではあったけど、限りなく、脇の下からめちゃ粉を振りまいていた。わたしを悩ませ続けた存在に、まさかこんなにも言葉通りのビジュアルが与えられると思わなかった。いざ粉出し踊りを目にすると、「へーっ!!」という感じで、まだ見ぬ存在を想像していた頃より、心は落ち着いた。

 

ひとしきり動画を見た後、LINEでひとつひとつ状況を確認していくと、彼女はこの動画に出てくる人が大好きで、ものすごく憧れていたのだという。

 

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だから、脇から粉を出す、まではいかないけど、奇怪な踊りをするロン毛がいることに遭遇できてめちゃくちゃ嬉しかった。というお話だ。

 

当初私が想定していた、想像もつかない存在に出会って自分の可能性が広がった話…というより、理想の表現やそれが実現される場所を追いかけていればその存在に近い人たちに囲まれていたりする、ということだった。

 

しかも、コネズミちゃん曰く、この人に憧れるあまり、この人のような人に出会うどころか、自分の表現がこの人に近づいている、とのことで、今後は自分が脇から概念の粉を出すようなパフォーマンスを追求していきたい、と言っていた。素晴らしいと思った。

 

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私も、彼女に招かれてパーティに行ってみた。頭の先から足の先まで、かつて彼女が私に選んでくれた虹色の服に身を包み、初めての場所に出かけてみる。「プロム」というコンセプトのもと、皆が愛しいぬいぐるみを抱えて、閃光と音の波を楽しんでいた。

 

奇怪な踊りをするロン毛は真面目に探さなかったから、明確にいたかどうか覚えていないけれど、そこには好きなファッションと表現とこの瞬間を楽しむすてきな若者たちがいた。そして、ゴリゴリに筋肉がついた両腕が生えたにゃんこ大戦争のぬいぐるみが壁際にそっと置かれているのを見た。大きなテディベアが、宙を舞うのをただ眺めていた。

 

世界にはやわらかな"プロム"があった。小動物が撒き散らしたふわふわの粉を浴びて、私は今日を生きている。友達9年目も、過去最高の時間を過ごしている気がするのだった。