生きてることが辛いなら いっそ小さく死ねばいい
恋人と親は悲しむが 三日と経てば元通り
気がつきゃみんな 年取って
同じところに 行くのだから
森山直太朗『生きてることが辛いなら』
あ、もしかして、世界のほとんどの人ってこれをあえて事前に説明されないと、文意が読み取れないの?そんな世界を生きているの?と、12歳の私は衝撃を受けた。
この歌詞を、この歌を最後まで皆さん、じっくりと聴いて頂きたいと思います。命に対する前向きで真剣な思い・メッセージがしっかりと込められております。是非歌詞を噛み締めて、最後までお聴きください。まいりましょう、森山直太朗さん。「生きてることが辛いなら」。(第59回・中居正広)
— 平成の紅白名言集 (@kouhakumeigen2) 2023年4月3日
2008年の紅白で、森山直太朗が『生きてることが辛いなら』という曲を歌唱する前に、司会の人たちがものすごくひりつきながら、腫れ物に触るように、今で言う「炎上」を防ぐために、あえて歌唱前に「詩の良さ」を説明し、小学生の私が大変絶望した記憶がある。このツイートしか見つからなかったんだけど、確か詩の一節も朗読した気がする。
無粋で物分かりが悪く、文意が汲めない人のためにテレビで、本当はしなくてもいい説明をしなければいけない時間が存在すること、そういう「配慮」が必要であることが、あまりに衝撃的だった。12歳の私が、無粋だ、と思う行為をわざわざしないと、この世は成立しないっぽかった。大人はみんな偉いから私がわかるこのニュアンスがわからずに怒ってしまう人がいることがなんだか嘘のようで、テレビが「そっち側」に基準を合わせて放映したことが信じられなかったのだ。
この曲が好きか嫌いか、良いか悪いか、説教くさいか素晴らしいかという議論を始める以前に、こんな防衛線を張らなければいけない世界に、生きている。私の生きている世界は無粋な大多数に合わせてこの曲の核心の部分をあえて説明して台無しにするような世界なのだ、という事実が苦しかった。
これは、どうせ死んだって何も変わらないから、そう重大に考えなくてもいいよって言ってて──ほら、あえて説明するとゴミになる──少なくとも、本当に「死ね」とは言っていない。
というかそんな曲をあえて作るような人なら、とっくに死んでます。
でも、「本当に死んでいいわけではないんですよ」とあえて説明して歌われると本当に歌の価値がめちゃくちゃ低まると思うんだよ。
この曲が説教くさくて嫌いというなら、わかる。こういうテーマを扱うなというならわかる。そうは言ってもこの言葉は希死念慮のある人にとって引き金になるんじゃないか、というのもわかる。でも、それは少なくとも、「一応 自死を止めたいよ〜」という前提で作られているという共通認識あってのことだと思ってた。にしても過激すぎるとか、何も止められないとか、そういう話ができるんだと思ってた。
そもそもノールックでどんどん死んじゃおうソングを年末にNHKが歌わせるとでも思っているんだろうか。
これを歌唱する人が控えてる前で「本当に死ねって言ってるわけじゃないから最後まで聞いてね」って注釈をつけられる年末の歌合戦は、なんというか、私の生きてる世界を本当につまらなくさせた。14年経っても嫌だもんな。
CHAIが『N.E.O.』を歌ったら
「この曲は従来美しいとされてこなかった価値観に対して新たな視点を与え、クリエイティブな感覚をうたっていますどうぞ最後までお聞きください。」
松任谷由実が『14番目の月』を歌う前に「満月前夜の満ちる直前の月を、実る直前の恋に例えており、名前のつかない盛り上がりを楽しむ様子を歌い上げています。」って言うのだろうか。
そんな世界は嫌だと思う。ていうか『14番目の月』の歌詞に「言わぬが花〜」って歌詞があるけど、もうあと10年くらい経ったら「言わないことが逆にときめきを盛り上げるってことですね」とか言われてから、曲が再生されるのだろうか?この曲については、コンセプト自体を破壊することになるから、あえて言葉にする曲紹介をしたら、逆にアーティスティックかもしれない。
森山直太朗の歌唱、最後は、
生きてることが辛いなら
くたばるよろこびとっておけ
森山直太朗『生きてることが辛いなら』
で終わるけど。これ、歌い終わりまで待てなかったのか?多分歌い終わりまで待てずにNHKに電話かけちゃう人がいるから先に言ったんだよな。歌唱が終わるまで待てずに、一言だけじゃなくて、文節とか文全体を読んで、話してることがわからない人のために、核心に触れずに上手に作ろうとされた誰かの作詞が台無しになるの、つらすぎる。ほんと、いいか悪いか以前に、突然発狂する人向けに事前にワンクッション置かれるの嫌すぎる。
なんか、あれ、視聴者として信頼されてない感じがあったんだな、信頼されてないくせに、これから歌を歌われるのが嫌で、寂しい気持ちがしたんだ。
それくらいわかるよ。
この記事を書こうと思って『生きてることが辛いなら』って検索しようとしたら、
「生きてることが辛いなら 小さく死ぬ 意味」って候補が出てきたよ。
この曲は世界の大きさに比べたら自分の存在なんてとても小さいものだし、元々何もないところから何もないところにいくだけだからそんなに気にせず気軽に生きたらいいと思う、宇宙に対して小さな存在である自分が、小さいままいつか自然の流れで死ぬ日を待てばいいって、歌っているんですよ。いかがでしたでしょうか?
バカみてぇ。
説明をされるから無粋で、説明がないと怒ってしまう人のために世界が無粋さを基準に回っていることが腹立たしい。腹立たしい世界がどうやら基準のようだと26になってやっとわかったからなるべく粋な方に閉じこもるように舵を切った。誰かから眉を挟められるかもとか、わかりづらいかもだけどそれでも伝わるかもと思って、世界の信頼度を上げて何かしら発信したいなと思っている。
説明をしすぎない美を、私は強く求めている。